投稿者「heli」のアーカイブ

【詩】風葬

ウィキペディアで風葬を調べると、具体的な事例がいろいろあるわけですが、ここでは単に風に葬られるという意味だけで使っています。そんなのが許されるのかどうかは皆さんにご判断いただければ。

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風葬

真っ白に輝く遠い山並みは
青空の表面にハイライトを入れ
薄茶の砂はゆるやかなドレープを描き
群青の海は白いレースをまとう

この誰もいない海岸に
限りなく広がるうつくしい方角を
身体は魚眼レンズのように
溢れても溢れても取り込み続けた

冬の北国の海といえども
いつも灰色に塗りつぶされているわけではなく
まぶしい光の日には
裸の樹木や海食崖さえも
隠されたテクスチャーを露わにする

天気予報の悪戯のせいで
当てが外れてしまったけれども
握りしめた切符に導かれたならば
あとは静かに向き合えばよい

こんなにも透き通った海と空に
ただ眼を閉じて身体をゆだねれば
魂の最後のひとしずくまで希釈されて
悼む言葉もないまま風に葬られる


Avarandado弾き語りました。

先日、ガル・コスタが亡くなりました。

私自身は、ガル・コスタの作品ってほとんど聴いていなくて(というかそもそもボサノヴァ以外のブラジル音楽をあまりよく聴いていない。。。)、唯一聴いているのがカエターノ・ヴェローゾとの「ドミンゴ」。
でも、「ドミンゴ」は大好きでよく聴いてましたというか聴いてます。無人島に持って行く●枚のレコードみたいな企画があったら、必ず含めるであろうくらい好きです。
というわけで、「ドミンゴ」への愛に免じて、哀悼の意を捧げつつAvarandadoを弾き語るのをお許していただければ幸いです。


還暦÷3

ついでに20歳の頃のことを思い出しながら作った詩も載せてみる。

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軌道

この街の三月は春だから、夜の電車の窓に映り込んだまなざしは楕円の軌道を描いて合わせ鏡の奥へと遡っていく。限りなく遠い接点。やわらかな色彩の座標は季節はずれの服のように居場所をなくす。うち捨てられた旗はかわいた雪にゆれて、トラックのさびた残骸は化石のように凍りついている。そして無人駅の廃屋へと続く道が残されたただ一つのものだった。それでも明滅する言葉は幼いかたちのまま降り続けていて、ほんの少しだけぬくもりを帯びることがあったかもしれない。やがて冬の太陽が定刻の合図を送ると、鉄橋の下をゆるやかにうねる河から血の気が失せて、列車は送電線の鉄塔に導かれて地平線の彼方へと姿を消していく。取り残されたわたしの方角は大きな弧を描いて回帰し、どうしようもなく離れていく軌道から眺めているのが同じ闇なのかどうかもわからなくなってしまう。


還暦÷2

あと数日で誕生日。なんと還暦。
60歳。どうにもこうにも実感が湧かない。
30歳を2回生きたことになるなんて。いやはや。
ところで30歳の誕生日をどう過ごしたのか。全然覚えていないし日記とかつける習慣もないので記録もないけど。
その頃は、最初に就職した東京からUターン転職で札幌の実家に戻ってきていて、北海道内(札幌を除く)の商店街を出張して回るような仕事をしてました。
結局札幌にいたのは4年くらいで、また東京に転職して今日に至るのですが。

その頃のことを思い出しながら数年前に書いた詩なぞ。

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どこでもない町

音もなく波打つ灰色の海をまとって
車は霧雨の道を流刑のように走り続ける
睥睨する断崖を首をすくめてやり過ごすと
どこでもない町の一週間が始まる

そこでは埃の匂いのするソファに座り
郷土の名士の色褪せた肖像写真に囲まれて
にこやかに訳知り顔の世間話をしたり
黙々と渋面のキーボードを叩いたりする

昼下がりの岬を見晴るかす緩やかな斜面に立てば
ことばは白く輝く水平線の彼方から、
このきれいに生えそろった若草の芝生へと届くだろう
あらゆる世界から隔絶しているどこでもない町は
それでもなおあなたの引力圏にあり
たとえ途方もなく長大ではあっても
楕円軌道を描いているはずだったのだから

しかし、ことばは断崖の向こうで身もだえする海岸線に拘束され
海霧や横殴りの風に傷ついて
とぎれとぎれの雑音にかき消されてしまう
そしてわたしは海からも取り残される。

傾きかけた日差しが物憂げな頃になると
放課後の子供たちが遊ぶのが聞こえてくる
五時のチャイムが夕焼けに浸された町に漂うと
みんなそれぞれの家に帰っていく

わたしはどこの町に帰るのだろうか

次の週には塩まじりの冷たい風にまみれて
車はまばらな灌木の道を走り続けるだろう
まなざしが灰色の海霧に溶け出す方角には
どこでもない町がとりとめなく漂っているだろう


Minha Senhora弾き語りました。

ここしばらく旅行記ばかり書いていましたが、久々に弾き語り動画をアップしました。
Minha Senhoraはジルベルト・ジルの曲で、自身のアルバム「ロウヴァサォン」のCDにボーナストラックとして収録されているけど、私が親しんでいるのはもっぱらカエターノ&ガルの「ドミンゴ」のバージョン。
ネット上を探しても譜面もコード譜も見当たらないので、がんばって耳コピしました。コードチェンジが頻繁でポジションもポンポン飛ぶので、私のような下手っぴなギタリストには弾き語りはなかなかハードルが高かったですが、まあ多少無茶するのもまた楽し。