月別アーカイブ: 2016年11月

良い本を書いたり紹介したりしてくれる方々

読みたい本、読むべき本は山ほどあって、とても全部読むのは無理です。
それなりに忙しいし、やりたいことは他にもいろいろあるし、そもそも本を読むのはあまり速くないし。
というわけで、読む本を絞り込むことになるわけですが、その際に「この人が書いたり紹介したりする本は参考にする」という人が何人かいます。
前回の投稿でも言及した濱口桂一郎氏や池内恵氏は、そんな人たちのひとり(ふたりか)です。

濱口氏のことを知ったのは、10年くらい前にIT業界などで問題になっていた偽装請負の問題に仕事で関わったときです。
「偽装請負」という言葉を分解すると、「請負でないもの(労働者派遣など)が請負であるかのように偽って装うこと」ということになるでしょうが、では請負と請負でないものを区分する基準は何か。
これは労働省告示第37号「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」ということになるわけですが、ここで「労働者派遣事業でも請負でもないものの扱いはどうなるのか」という疑問が生じます。
IT業界でふつう「請負」というと民法の典型契約としての「請負」のことを想起しますが、IT業界で行われている契約はそれ以外にも典型契約では「(準)委任」がありますし、典型契約ではないものはいっぱいあるはずでしょう。
なのに、労働省告示の名称は、まるでこの世に労働者派遣か請負しかないかのようです。
それ以外の契約は一体どういう扱いになるのか。

さらに、当時偽装請負が話題になっていた分野に、「業務請負」があります。工場とかの構内作業に人を送り込む業態ですが、これはどう考えても仕事の完成を目的とする民法的な「請負」とは違う。

どうも、民法的な請負とは違う請負が労働の分野にはあるようだと、薄々思うようになったのですが、ではなんでそんなことになっているのか。
疑問に思ってすこしずつ調べてみましたが、両者を混同するような解説が多くて、なかなかわからない。

そんな中で出会ったのが濱口氏のサイト「hamachanの労働法政策研究室」でした。
たとえば「請負労働の法政策」という論文にこんなことが書いてあります。

1890年の旧民法では、請負と雇傭の区別は、前者が予定代価で労務を提供する(第275条)のに対して、後者は「年、月又は日を以て定めたる給料又は賃銀」(第260条)を受けて労務を提供するという報酬形態の違いに過ぎなかった。これが1896年の現行民法制定時に変化し、雇傭は「労務に服すること」、請負は「仕事を完成すること」を目的とする契約類型であると整理された。ところが、これは民法上の概念整理であって、世間では依然として広い意味の「請負」という言葉が用いられ続けていたし、他の法律では別の用法が生き残った。現行民法に続いて1899年に制定された現行商法は、その第502条で、営業的商行為の類型として「作業又は労務の請負」を挙げている。予定代価で他人の労務を提供する契約は商法上は請負契約なのである。

もうどんぴしゃりの回答という感じ。
もちろん、民法と労働法や商法で請負という言葉の意味が異なっているというのは困ったことですが、とりあえずそのことを知っておけば混乱しないで済みます。

ちなみに大学の時に受講した「北海道経済史」の授業で出てきた「場所請負」(松前などの漁場での漁労を請け負うこと)も、そういう意味での請負なんだなあと遠い目になってみたり。

というわけで、以後濱口氏の発信する情報に注目するようになりました。

最近だと、働き方改革と称して36協定の上限規制とかインターバル規制とか同一労働同一賃金とかが話題になってますが、どれも以前から濱口氏の本で取り上げられていたものばかりです。
いったいこれらの論点はどういう文脈にあるのかを知りたければ、濱口氏の本(たとえば「働く女子の運命」とか)を読むのが良いと思います。

池内氏はISが台頭した際に、ネットや書籍・雑誌やテレビで非常に有益な解説をされていたので、注目するようになりました。
最初に読んだのは「イスラーム国の衝撃」ですが、最近の「【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛」もとても面白かった。
複雑怪奇な中東の歴史や情勢を丹念に解き明かしつつ、クリアな整理をしてくれています。もちろん、それは単純な処方箋があることを意味するわけでは全くありませんが。

そういえば、ときどき紹介しているfinalvent氏は「トランプ」というワシントン・ポストによる評伝の書評を紹介していたので、さっそく買って読んでます。

良い本を書いたり紹介してたりしてくれる方々に改めて感謝。
というか、次は出雲旅行記の続きを書きます。

  

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WSJ「【寄稿】同胞を見捨てる世界のエリート」について(思いつきメモ)

出雲旅行記の途中ではありますが。

ネット上でこんなWSJの記事を見かけました。【寄稿】同胞を見捨てる世界のエリート

この記事の後半では「エリート」と一括りにして、特にリベラルか否かは問題にしていませんが、前半はメルケルの移民・難民受け入れ政策に関する話が多くの分量を割いて書かれているので、今回の米大統領選の結果のことも考えて、ここではリベラルな理念がなぜ「保護されていない人々=厳しい生活を送り、このような(=大量の難民・移民受け入れのような)重荷に対処するだけの資源を持たず、特別に保護されることもなく、金もコネもない普通の人々」のことを見捨てるようになった(ように見える)のかについて、思いつくままにメモしてみます。

1.リベラルとソーシャルに関する濱口桂一郎氏の議論
 濱口氏のブログに掲載されている「リベラルとソーシャル」という記事は、この問題を考える出発点として良いと思います。
 ポイントは、
1)ヨーロッパでは、経済活動の自由をできるだけ尊重するのがリベラル、労働者保護や福祉の為には経済活動の自由をある程度制限することもやむを得ないと考えるのをソーシャル。
2)アメリカでは、ヨーロッパのソーシャルに相当するものがリベラルと呼ばれている。
※2)の背景については、「リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください–井上達夫の法哲学入門」という本を読んで一応納得はしました。手元に本がないのでうろおぼえですが、確か「何ものから束縛されることなく自由に生きるためには一定の経済的な保証が必要であるとの考えのもと、それを実現するための施策(福祉など)の実現を志向するのがリベラル」だということだったかと。

2.「リベラル」という言葉の多義性
 前項の話だけでも話が混乱する要因として十分だと思いますが、他にもいろいろあると思います。
【リベラル1=ソーシャル】労働者保護や福祉を志向
 これは現実的な問題を解決するということであって、たとえば労働者が安く長時間こきつかわれているのであれば、賃上げとか労働時間削減などの実現に向けて取り組むということですね。労働法制などによる規制も主要な手段の一つです。
【リベラル2】リベラル1の発展系ですが、労働者が不利益な立場にある根本原因を資本主義的な生産様式に求め、その解決策として社会主義や共産主義の実現を掲げる。視線が足下の問題から遠いところにシフトした結果、問題解決に向けた現実的取組への関心が薄れたりすることもあるように見受けられます。
【リベラル3】問題の範囲を労使関係から年齢、性別、人種、性的志向等に拡張し、差別や抑圧の解消を目指す。

時間が無いので尻切れトンボ気味ですが、(アメリカ的意味での)リベラルの軸足が【リベラル1=ソーシャル】から「リベラル2」「リベラル3」へと次第にシフトする中で、【リベラル1=ソーシャル】成分が揮発していってしまった、ということなのかな、と。
とつぜん日本に視点を移すと、例えばリフレ的(=緩和的)な金融政策とか、働き方改革(時間労働削減など)とかは、そもそもがソーシャルな政策なので(アメリカ的な意味での)リベラル政党が真っ先に担いでしかるべきものではないかという気がするんですが、大々的に推進しているのは自民党安倍政権だったりするのも、同じような構造なのかなと。

まあ、腰を据えて勉強したことのある分野でもないので、あくまでも素人のメモということで。

【追記】この記事を寄稿したペギー・ヌーナン氏が、2月にトランプに関する記事を寄稿していたことが池内恵氏により紹介されていました

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出雲旅行記 その4(湯村温泉)

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松江・出雲周辺には温泉が結構あります。
まずは何といっても玉造温泉。Wikipediaにも

平安時代より三名泉(『枕草子』)とされ、規模、歴史ともに島根県随一、城崎温泉や皆生温泉、三朝温泉らと共に山陰を代表する温泉地である。

とあります。ただ、そのぶん

基本的に料金設定は高く、数寄屋造りの高級和風旅館が多い。

なんですよね。

お次は松江しんじ湖温泉。昔は単に「松江温泉」という名前だったような気がするのだけど。一畑電車のターミナル駅なくらいなので、市街地の便利なところにあるし、宍道湖のほとりにあるので景色も良い(あとで「良い」どころではなく「素晴らしい」ことがわかったのだけど)。みんな鉄筋コンクリートのホテルなので、風情というのはあまりないかもしれないけど。

出雲の近くには湖陵温泉というのもあります。実はここには2回も泊まったことがあるんですよね。なんたって国民宿舎なので費用がリーズナブルなのがありがたい。

これらの温泉は、松江・出雲近辺ということで、平地にあります。
でも、今回はできれば山奥のひなびた宿に泊まりたかったんですよね。
なんだか最近は無茶苦茶忙しくて(当社比)、人里離れた静かなところでのんびりゆっくり温泉に浸かりたいとずっと思っていたので。
ただ、島根の山奥の温泉なんて全然知らないので、あれこれネットで探してみるしかありません。
で、見つけたのが湯村温泉というところ。雲南市から山奥の方に入ったところにあり、写真などを見る限りおおむね希望する条件に合致している模様。

というわけで、湯乃上館というところに泊まってきました。
古い木造の建物や、離れのいろりで晩飯を食べられるところなど、何となく愛媛の小藪温泉を彷彿とさせるものがあります。
温泉は道を挟んで向かい側にある共同浴場ですが、露天風呂もあってとても良い感じ。
季節からすると、露天風呂の温度は心持ち高いとベストかなぁ。内風呂はちょうどよかった。
何はともあれ、川のせせらぎの音を聞きながら、のんびりじっくりぼんやり露天風呂に浸かっているのはやはり最高です。

写真にもありますが、大根を干しているのを見ると、子供の頃母親が作っていた沢庵やにしん漬けを思い出します。

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出雲旅行記 その3(出雲大社)

今回の旅の方針は「じっくりゆっくり見て回る」こと。
出雲大社では観光協会が行っている「定時ガイド」に参加することにしました。
500円で、あれこれの建物やら歴史やら参拝の作法やらについて一通り話を聞くことができて良かったです。

■出雲大社の参詣道「神門通り」
以前に訪れた際はあまりぱっとしない感じだった参詣道は、電線地中化されたり歩車道がリニューアルされたりしてすっかりきれいになり、こじゃれた店もたくさんあって全然違った感じになってました。こんなふうになったのは比較的最近のことらしく、「衰退した出雲大社の参詣道を見事に復活させた、出雲市と地域住民の再生戦略」という記事を見ると街並み再生に向けた官民あげての熱心な取り組みが行われたようです。こういう取り組みって下手をするととってつけたような感じになったりすることもあるけど、さすがに出雲大社の存在感が絶大なこともあってか、なかなか良い感じでリニューアルされていたように感じました。
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神門通りからちょっと横に入ったところに竹野屋という由緒正しそうな木造和風旅館があったのですが、ガイドさんによれば竹内まりやの実家だとのこと。島根出身だということは何かで聞いて知っていたけど、出雲大社の旅館だったのか。それにしても、そういうこともガイドするとは思わなかった。

■正門
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ガイドの方からはいろいろ作法について指導がありました。
・鳥居の真ん中は神様の通り道なので、端を歩くこと。
・正門を入って下り参道を少し歩くと、右手に小さな社があります。こちらは祓社というそうで、ここをお参りをし心身を祓い清めてから先に進むのだとか。目立たないので知らないと見落としてしまうがな。
・参拝は二拝四拍手一拝。普通よりも拍手の数が多いのが出雲大社の作法なのだとか。
・手水舎で手や口を洗います。なんかひしゃくを使い回していやだなぁといつも思ってたんですが、そこはちゃんときれいな使い方というのがあって、最後はひしゃくを手前に傾けて柄を水で洗うんですね。
全体の印象としては、過度にうやうやしかったりへりくだったりということもなく、なんか日常の中にお参りが根付いているという感じ。

■御本殿
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正面からどーんと撮りたいところですが、門に遮られているため、そういう撮り方はできないんですよね。というわけで横から撮りましたが、やはり一部しか撮すことはできません。昔は倍の高さがあったそうですが、ほんまかいな。というか中央の女性の元気いっぱいな歩き方がやけに目立ってます。

■拝殿・神楽殿
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やはり出雲大社といえば、この巨大な注連縄ですよね。ガイドの説明によれば、県山間部にある飯南町の大しめなわ創作館というところで制作しているのだとか。それにしても本当にでかい。神楽殿の写真で人の大きさと比べるとでかさがよくわかると思います。

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出雲旅行記 その2(一畑電車)

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昔々、札幌の中心部と、札幌の奥座敷などと言われる定山渓温泉を結ぶ定山渓鉄道というローカルな私鉄がありました。
幼い頃から鉄道に興味があったので、いつかそのうち乗ってみたいなと思っていたのですが、札幌オリンピックの少し前に市営地下鉄が出来るのと引き替えに、定山渓鉄道は廃止に。

そんなこともあってか、地方のローカルな私鉄には郷愁まじりの愛着を感じることが多いです。
それほどたくさん乗り歩いてきたわけでもありませんが、上田電鉄別所線とか、香川の琴電とか、愛媛の伊予鉄とか、富山地鉄とか。どれも好きな鉄道です。
松江と出雲大社を結ぶ一畑電車も大好きな電車です。山陰ならではの地方色を強く感じるせいでしょうか。

■松江しんじ湖温泉駅
とてもモダンな駅舎。以前に来たときはこんなんじゃなかったと思うのだけど、でも昔どうだったかは全然思い出せない・・・。
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■車窓風景
前半の多くは宍道湖のほとりを走ります。浜名湖とかもそうだけど、本州の汽水湖って生活が近いというか、なんだかのどかなんですよね。ぼんやり眺めているだけで気分がのんびりしてきます。北海道の湖の多くが秘境っぽいのとは対照的。
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■一畑口駅
一畑薬師への入口にしてスイッチバック駅(経緯はWikipedia参照)。向こう側で線路が二股に分かれているのがわかるでしょうか。左側が松江方面、右側が出雲大社方面です。それにしても超広角の魚眼レンズは遠くのものを克明に記録する用途には全く不向きであった・・・。
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■出雲大社前駅
このレトロな駅舎いいですよねー。ステンドグラスの部分は昔はアールデコっぽい放射状のデザインだったような記憶があり、昔の写真を漁ってみたら、今と同じステンドグラスだった・・・。なんと当てにならない私の記憶。
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