OTONARIという音楽雑誌の「働くバンドマンのリアル」という記事について

ふとしたことからOTONARIという音楽雑誌が最近出たことを知りました。
音楽ジャーナリストを養成する学校の生徒が作った雑誌だそうで。
普段、定期的に音楽雑誌を読む習慣はないのだけど、本屋で立ち読みして時々気が向いたら買ってみることはあり、今回もそんなノリで買ってみました。
目を引いたのは「働くバンドマンのリアル」という特集記事。あまり音楽雑誌では目にしないテーマのような(私が知らないだけかもしれないけど)。

ちなみに、私はサイトのプロフィールで「第二種兼業音楽家」などと冗談半分に名乗っています。
もっとも音楽家としての活動は全く「業」としての体をなしておらず圧倒的に持ち出しが多いことを思えば、そもそも「兼業」などと呼ぶに値するのかどうか疑問で、アマチュアに毛の生えた程度というのが実態かもしれませんが。
何はともあれ、曲がりなりにも仕事をしながら音楽活動をしていることは事実です。

そんな立ち位置で読んだ「働くバンドマンのリアル」という記事ですが、「仕事と音楽」「バイトと音楽」という2部構成になっていて、音楽活動をしながら仕事を選択した者とバイトを選択した者には違いあるのではないかとの仮説のもと、それぞれの類型にあてはまるミュージシャン2人ずつ計4人にインタビューを行っています。
読んでいて感じたのは、ちょっと一般論っぽくなってしまうかもしれないけど、いろんな分野で、昔はオールオアナッシングだったものが、中間的なあり方が増えてきているなということ。
例えば音楽については、昔はレコードを作って流通にのせるというのはイニシャルコストが非常に大きく簡単に出来ることではなかったけど、今はネットを使えば取りあえず誰にでも聞いてもらえる状態を実現するのは全然難しくないですよね。
もちろん、実際にどれだけ多くの人に聞いてもらえるかは音楽の質やプロモーションの努力などに大きく依存するわけだけど、そのあたりが程度問題になった結果、全面的に音楽で食っている人と音楽ではほとんど稼いでいない人の間にさまざまな段階がグラデーションを形成しているように見えるわけです。
もっとも、この記事に載っている事例を見ると、例えばフジロックに出ていたりするので、フルタイムの音楽活動をやっていても全然おかしくない感じではありますが・・・。

一方、兼業している音楽以外の部分についても、いにしえの「正社員VSパート、アルバイト」という雇用の形が多様化し、非正規雇用や個人事業主(フリーランス)としての働き方がぜんぜん珍しくなくなってきて、これまたどのくらい働いてどのくらい収入を得るかというのが程度問題になってきているように見えます。
さらに、ICTの発展によっていわゆるノマド的な働き方が可能になり、記事にもあるようにライブの楽屋でノートPCを使ってデザインの仕事をする、なんてこともできてしまう。

その結果、どのくらい音楽をやって、どのくらいそれ以外の仕事をするか、そのミックスの比率も人それぞれというか、多様なあり方が可能になってきているので、明確な線引きは難しくなってきているように見えます。
最初に書いたように「働くバンドマンのリアル」という記事は「仕事と音楽」「バイトと音楽」という2部構成になっているのだけど、「仕事」と「バイト」との間に根本的な違いがあるようにはあまり見えないんですよね。
出てくる事例を見ても、01が個人事業主(フリーランス)、02はよくわからないけど例えばこんなとこを見ると、いろいろな雇用形態がありそうです。03はバイトとはいえほぼフルタイム労働に近いし、04はトラックの運転等の肉体労働系でこれまたフルタイム労働に近い(というかそのもの)。どれも「フルタイムの非正規雇用」という点では共通しています(02は不明だけど。あと01は個人事業主なら労働者じゃないので「雇用形態」ではないし、決まった拘束時間があるわけではないので「フルタイム」というのは語弊があるけど)。

話がまとまらなくなってきたけど、最後に産業というか経済の話を。記事に登場する4人のミュージシャンに共通する認識として、音楽で食っていくことは非常に厳しいということがあります。その背景は、言うまでもなく産業としての音楽のパイがどんどん縮小してことにあるわけですが、その要因を考えると、失われた20年などとも言われる長期の景気低迷と、音楽以外の娯楽の台頭により音楽の地位が相対的に低下していることが重畳していて、どちらがどのくらい影響しているのかあまりよくわかりません。先日のエントリーで、いわゆるアベノミクス(のなかのリフレ金融政策)が確実に実行されれば、経済が回復する可能性は高いのではないかと書きましたが、そうなったときに産業としての音楽はどのくらい、どういう形で回復するのか。なかなか予見しがたいところがあるような。
(参考)
時事問題の旬について(追記あり)
同人化する文化

何はともあれ、最初に書いたように「音楽以外の仕事をしながら音楽活動するということ」というテーマは、これまであまりちゃんと取り上げられているのを見たことがないのだけど、いろんな論点についてを発展的に考えることができて面白かったです。以上、尻切れトンボですがおしまい。


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