アナログプレーヤいじり その8~ピックアップの低域共振周波数を計ってみる その1

カートリッジとトーンアームの相性を考える上で、低域共振周波数(いわゆるアーム・レゾナンス)が最も重要な指標の一つと言われています。

 共振をわかりやすく説明するには、お祭りの縁日で売っているヨーヨー(?)が適当かと思います。ヨーヨーといっても、小さな風船に水をつめて輪ゴムと取り付けたやつのことです。
 指にヨーヨーの輪ゴムを引っかけて、風船をだらりとぶら下げた状態で、手を上下に動かしてみたらどうなるでしょうか。
1.ゆっくり動かすと、手の動きに従って風船も上下に動きます。ゴムは伸縮しません。
2.思いっきり速く動かすと、手だけが動いて風船はほとんど動きません。ゴムは手の動きに応じて伸縮します。
3.1と2の中間のスピードでは、手と風船の動きが逆になる(例えば手が上に動いているときに風船が下に動く)スピードがあります(ヨーヨーで遊ぶときはこのスピードかと思います)。ゴムは最も激しく伸縮します。これが共振で、このときのスピードが共振周波数ということになります。
 共振のスピードは、風船が重いほど、ゴムの強さが弱いほど遅くなります(共振周波数が低くなる)。これは感覚的にわかりますよね。
 で、同じことをピックアップについて考えると、針先がレコードの溝に従って振動します。針の根っこはダンパーと称するゴムを介してピックアップ本体(カートリッジ、ヘッドシェル、トーンアーム)につながっています。ということで、ヨーヨーと対比してみると、
ヨーヨー ピックアップ
・手     針
・ゴム   ダンパー
・風船   ピックアップ本体
ということになります。
 さて、カートリッジというのはカートリッジ本体から見た針先の相対的な動きを、コイルと磁石を使ってフレミングの法則によって電気信号に変換する装置です。では、針先の動きのスピードによって、出力される電気信号の大きさはどう変わるかというと、
1.遅いとき
 針先とカートリッジ本体は同じように動く(すなわち相対的な位置関係は変わらない)ので、電気信号は発生しません。
2.速いとき
 針先だけが動いてカートリッジ本体は静止しているので、針先の動きに応じた電気信号が発生します。
3.共振周波数
 針先とカートリッジが反対方向に動くので、相対的な動きは非常に大きくなり、発生する電気信号も非常に大きくなります。
 レコードに刻まれた信号を正確に再生するという見地から共振という現象を考えると、
1.過大な電気信号を発生する
2.針先とカートリッジの相対的な動きが過大になることにより、さまざまな歪みを発生する
という点で、いささか望ましくないものだと言えます。
 では、どういう対策を講じればよいかというと、
1.共振周波数で針先が振動しないようにする
2.共振の度合いを小さくする
といったことが考えられます。ここでは1について考えてみます。
 まず、レコードの溝には可聴周波数帯域(20Hz以上)の信号が刻まれているわけですから、共振周波数がそれよりも低くなるようにすればよいわけです。
 では、低ければ低いほど良いかというと、レコードにはソリや偏芯という問題があり、この周波数は数Hzくらいです。
 ということで、共振周波数はどのくらいに設定するのが望ましいとされているか、いくつかの資料をあたってみると、
・レコードプレーヤ(日本放送協会出版)・・・10Hz付近
・昔のラジオ技術の記事・・・10-15Hz
MJテクニカル・ディスク第3集解説(誠文堂新光社)・・・10-15Hz(10-13Hz)
などとなっています(つづく)。
【追記】
 「レコードとレコード・プレーヤ(ラジオ技術社)」には以下の記述があります。

・・・最近のカートリッジとアームの組み合わせでは5-7Hzくらいが多いのですが、レコードのソリや外来振動から見ると10Hzが適当・・・

 なんで「最近(70年代後半)のカートリッジとアームの組み合わせでは5-7Hzくらいが多い」のか、理由は色々あるでしょうが、私見では、カートリッジについてはいわゆるローマス・ハイコンプライアンス化が追求される一方で、トーンアームやヘッドシェルは高剛性化が追求された結果、ピックアップ全体の実効質量は大きくなる傾向にあったためではないか、と思います。
 そのような方向の追求が行われた背景としては、「ローマス・ハイコンプライアンス」とか「高剛性化」といったキャッチフレーズが市場で訴求力を持ってしまったために、メーカーとしては引っ込みがつかなくなった、という面もあったのではないでしょうか。
 さらに、それじゃぁさすがにまずいということで、ハイコンプライアンスのカートリッジに対応した軽量アームも並行して開発されたものの、それらは基本的にストレートパイプのヘッドシェル固定型だったために、ユニバーサルアームの人気が高い日本ではいまいち受けなかった、ということではなかったかなぁなんて思ってます。
「レコードとレコード・プレーヤ」にはこんな記述もあります。

・・・最近のカートリッジは全重量は軽量化されないのにコンプライアンスは大きくなる一方なので・・・

 なんか、「困ったもんだ」というニュアンスがにじみ出ているように感じられるのですが、思い過ごしでしょうか。
 「レコードとレコード・プレーヤ」を執筆したのはビクターの研究陣ですが、ビクターの一連のカートリッジ(当時はMC-1が最新作だったようです)のコンプライアンスがあまり高くない理由もそのあたりにあったのかもしれません。
・・・なんか脱線しまくってすっかり長くなってしまいました。


3 thoughts on “アナログプレーヤいじり その8~ピックアップの低域共振周波数を計ってみる その1

  1. king20

    heliさん
    勉強になります。
    レコードは捨てないで持っているのですが。
    プレーヤーが物置に眠っていて、すぐに聴けないのが
    残念、其れと今のコンポはレコード入力が無いのよネ!
    困ったモンだ。

    返信
  2. ishiatama

    昔もらったテストレコードに低域共振チェック用のスィープ信号が入っていたんですが、共振周波数になると突然針が溝から吹っ飛ぶかと思うほどアームが左右に振れだして、びっくりした事を思い出しました。
    にせむら2号ですが、先ほど発注していた底板用の銅板が届きました。あともう少し…  のようでまだまだ先は長い。引越しが月末に伸びたのでなんとか   ふぅ~。

    返信
  3. heli

    >king20さん
    では、フォノイコライザアンプを自作しましょう!(笑)
    >ishiatamaさん
    うーん、我が家でもテストレコードで試してみたのですが、そこまで激しい現象は起こらないんですよね。
    にせむらアンプ楽しみにしてます(特注の銅製底板というのが凄そう)。僕も中断しているパワーアンプなんとかしないと・・・。

    返信

king20 へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。

*