「いやな気分よ、さようなら」

認知療法について懇切丁寧に書いている本としてfinalventさんが紹介しているのを見て、興味を持って買ってみたのが何年前だったか・・・。
アマゾンから届いた本の厚さにびびり、しかもおびただしい序章や序文やはじめにを読んでいるうちにすっかりめげてしまい、中断。
うつのときって本を読むのが一苦労だったりするんですよね(まあそんなに深刻な状態でもなかったけど)。

そんなわけで、長らく積ん読リストの中に埋没していたわけですが、最近久々に取り出してもう一度チャレンジしてみることに。
前回のことを反省し、頭の方はすっとばしてダイレクトに第一章から読んでみたところ、今度はどんどん読み進めることができました。

これまで、なんとなく精神療法一般に対して懐疑的な気持ちを持っていたのですが、それを的確に指摘した文章があったので、ちょっと長いけど引用。

あらゆる学派のセラピスト達が、決めつけた言葉でもって患者達の経験を解釈してきました。しかもそれはほとんど、あるいは全くといっていいほど、実証的に確認されていないのです。もしあなたがそうしたセラピストの説明を受け入れなければ、もっともらしく「真実」への「抵抗」と解釈されるでしょう。こうした巧妙的なやり方で、あなたの問題は無理矢理に、あなたの言うことに耳を貸さないセラピストの型にはめられてしまいます。宗教家のカウンセラー(神秘的要素を持つ)や、共産国の精神医学者(社会ー政治ー経済的環境)、フロイト派分析家(内向した怒り)、行動療法家(陽性強化の欠如)、薬物にこじつける精神科医(遺伝的要因とバランスのくずれた脳内生化学現象)、家族療法家(不穏な人間関係)などなど、あなたがそこを訪れればうんざりするほどいろいろの説明をきくはめになるわけです。

ちょっと笑いました(これは、この本の中でも一番毒のある箇所で、この本全体がこんな感じというわけではありません)。

これに対して、認知行動療法は以下のようなものであると主張されています。

1.効果が定量的・統計的に把握され、薬物療法等との比較により評価されている(ように見える)こと。
 薬物療法と同等の効果があり、再発しづらいということらしい。
2.治療の前提が穏当かつ常識的なこと。
 物事と感情の間に認知が介在し、認知が歪むことがうつ病の症状を引き起こす。

実際の方法論ですが、頭の中だけで考えているだけでは、歪んだ認知がぐるぐる回ってどんどん歪んでいってしまうので、何らかの方法で認知の内容を頭から外に出して、客観的に歪みを認識できるようにします。
具体的には、
1)医師やカウンセラーと対話する
2)紙に書き出す
ということになりますが、後者は自分一人でもできるというわけで、この本でもいろいろなワークが提案されています(医師やカウンセラーのところに通う場合でも「宿題」としてそのようなワークをやらせるもののようです)。

第1章がイントロダクション、第2章がうつ病の病状の評価、第3章がうつ病による認知のひずみ方のパターンで、第4章以降はこれらをベースにしたワークがいろいろ紹介されています。
個人的な印象ですが、第4章でまっさきに紹介されている「トリプルカラム法」だけでもかなり効果があるように感じたので、最初からあれこれやるよりも、まずは一つか二つの方法論にじっくり取り組むのが吉ではないかと思います。
ちなみに、第3章にある10個の認知のひずみ方のパターンは、かならずしもロジカルに美しい整理ではないようですが、実用的ではあるようだし、それぞれのパターン同士の関係を考えること自体が治療効果がありそうな気もします。

一方で、訳書だなあと思う部分もちょびちょびあります。
たとえば、第5章のタイトルは「虚無主義」となっています。英語を見るとdo-nothingismなんですが、ちょっと違和感を覚えました。Weblioを見ると「無為無策主義」とありますが、まだこちらの方が近い気がします。もっと平たく「何もしない(したくない)主義」とかでいいんじゃないでしょうか。
あと、「マスターベーション」。英語はmusturbationで、「すべきだ」「しなければならぬ」という考えが自らを追い詰めてしまうような状態を表す言葉として、masturbationとmust(しなければならぬ)を引っかけた造語なんですが、これは翻訳すると伝わらないですよねー。

とまあこんな感じで、多少気になる部分もありますが、私には大いに参考になったし役にも立つ本でした。
ちなみに後ろの5分の2くらいは抗うつ剤に関する解説です。


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