復刊ドットコムにで復刊成った「基礎トランジスタ・アンプ設計法」、昨日手元に届きました。
何度も書いているような気がしますが、半導体アンプの設計についてこれだけまとまった形で詳細に掘り下げて解説したものは他ではあまり見たことがありません。最初の2章には基本的な考え方が凝縮して記述されていますし、残りの章では具体的な応用事例としてイコライザ・アンプとMCヘッドアンプとパワーアンプについて詳述してあります。そういう意味では非常に貴重な本ですし、復刊の意味も大いにあったかと思います。
一方、多少注意したほうがよいこともあるかと思います。
・全くの文系ど素人(って私のことですが)が最初に読むにはちょっとハードな本だと思います。私も最初読んだときは歯ごたえがありすぎて挫折しました。少なくとも前編の「実験で学ぶ最新トランジスタアンプ設計法」は読んだ方がよいと思いますし、例えば「定本 トランジスタ回路の設計」みたいな本で概略をつかんでおくと一層理解しやすくなるのではないかという気もします。
・本書が刊行されたのが80年代ということもあって、基本的に紹介されているアンプはDCアンプであり、初段はデュアルJFETが使われていますが、デュアルJFETはほとんどが製造中止であり、ごく一部流通在庫が出回っているにすぎません。他にもパワートランジスタなど製造中止になっているパーツが多々あります。というわけで、解説されている回路をそのまま作りたい人は、代替品の利用も視野にいれつつ、早めに着手した方がいいかもしれませんが、それよりも、本書からはあくまでも設計方法を習得し、実際に作る際には、例えば昨年のトランジスタ技術に掲載された黒田氏の入門記事とかも併せて読んだほうが、現在の状況に見合った取り組みができるようにも思います。
・・・なぁんて偉そうなことをかける立場でもないんですが。私自身が色々四苦八苦しております。
届きましたか?私の周辺にも5人ほど注文しているのですが、今日現在未着のようです。関西は遅いのかな?
確かに初心者がいきなりではハードルは高いでしょうね。私は前編でさえ、最初に見たときは面食らいました。他の自作アンプ関連の書籍とは隔絶していましたから。
「定本 トランジスタ回路の設計」ですか…。私は続編を持っているのですが、ノイズに関する記述などデタラメで、全般にイイカゲンな内容で「低凡」と思っています。廃刊ドットコムがあったら、一票入れちゃいます。誠文堂新光社あたりから出ているのならまだ目を瞑りますが、CQ出版から出ており一見まともな技術書風なところが余計許せないのです。
2年ほど前に、トラ技で回路シミュレーターの特集があり、鈴木雅臣氏が1章2章を執筆しておりました。「定本…」が発行されたのは十数年ですから、「鈴木さんもあれから少しは勉強してマシになったかなぁ?」と思って読み始めたんですが、いきなり最初からコケまくってました。トラ技編集部も執筆者をちゃんと選択しなければイカンなぁ…と。
チョッと辛口でした。
復刊署名推進役お疲れ様でした。
近代的な半導体回路の設計にはgm(出力電流の変化/入力電圧の変化)というパラメータがキモになるのですが日本語の一般向けの本で、そうなっているのは黒田本だけです。
あとはゲルマ時代のhfe(出力電流の変化/入力電流の変化 – 個体差も温度変化も巨大)主体の設計方法のあやしい焼き直しみたいな本ばかりで、鈴木氏の本も例外ではありません。
旧方式だと実は満足にゲインの導出もできませんが、その辺はみんななんとなくお茶を濁しているわけです。
>ishiatamaさん、渋谷さん
どもまいどです。
定本だめっすか・・・。まぁ、確かにgmベースで説明している本ってあまり記憶にないですね。
とっつきやすくていいかなと思ったのだけど、今思うと、先に読んだ黒田本のおぼろげな知識で無意識のうちに情報を取捨選択しながら読んでいたのかもしれません。
そういう意味では、去年のトラ技の黒田氏の記事は、よりとっつきやすいものになっていたようにも思いますが、どうでしょか。
黒田本の元になった連載(ラジオ技術)の劈頭で
当時の自作界の風潮(今も変化なし)を憂う部分が
あり、具体名もバンバンでていました。(c.1984)
本の1巻目のほうにも、井の中蛙ではだめで技術界
の大きな流れをみないとという示唆は残ってます。
黒田氏個人による、「素人にはこんなもの」という
業界の見切りの低さへのゲリラキャンペーンなので
しょう。
アマチュア層の質的枯渇は長期的にはその分野
自体の衰退につながる、というご高察はその正しさ
を各方面でいままさに証明されつつあるとしか
いいようがありません。
トラ技の記事を見逃したままになっているのですが黒田氏らしい良心的な内容との評判のようですね。
>渋谷さん
いやまったく。1巻目の前書きには私も感銘を受けました。
それにしても、英語のサイトには健全なアマチュアの旺盛な活動ぶりが感じられるものが少なからずあると思うんですが(怪しいものもたくさんあるけど)、それにひきかえ日本は・・・。なんとなく、日本における科学技術って高度成長的成り上がりの世界とともに盛り上がり沈んだ、という気もするのですが、どうなんですかね。職人技にあこがれる人はいっぱいいるとは思うんですが。
財閥系大手ですと
-親方日の丸部門の存在
-プロセス/マニュアル絶対視
-自己目的化した品質管理
この3点セットが砒素のように民生部門の活力を侵しているようです。
純消費者化した受け手へ向けられているメディア・メッセージを見ますと
-こだわり
-プライド
-被害者意識
この3点セットの刺激に注力していますが、この3点セットは期せずして、ホスピタルグレードの患者さんが精神科の先生に訴えるメセージの中核と重なります。
横から失礼いたしますm(_ _)m
>-プロセス/マニュアル絶対視
>-自己目的化した品質管理
これは最近仕事(主に工事)で経験して身にしみます(^^;。大手家電メーカーの担当者がまさにそんな感じでした。
いわゆるマニュアル記載以外の事が何も出来ず、作り上げるモノ、目的に対してほとんど理解していない人でした。仕事上マニュアルに沿っていけば誰でもできるようにしてあるのは管理の点でメリットはあるでしょうが、やってるほうは何も考えるな、と言われてるように感じますし、根拠を考えたうえで異議があってもまったく相手にされず非常に面白く無いです。
>去年のトラ技の黒田氏の記事
期せずしてつい先日見ました。「初めてのトランジスタ回路設計」はもっていますが、飽和電流とIc、Vbeの事とか、式の解説をより噛み砕いているような感じで各パラメータがどのように動作に影響するかイメージしやすいように感じました。
メーカー側の状況についてはよく知りませんが(品質やプロセスに関して規格やら認証やらが山のように押し寄せてきて、その対応で四苦八苦という話はよく聞きますが)、ユーザというか消費者側の状況については、こんな風に考えてます(一般論ですが)。
オーディオに限らず商品やサービスは、消費に際して必要となる知識やスキルができるだけ少なくても済む方向に進化してきたと思います。
そのことにより、消費者が大きな恩恵を被っていることは否めません。すべての消費者が、身の回りにあるものすべてについて、動作原理に関する詳細な知識や製造に関する詳細なスキルを習得していなくてはならないのだったとしたら、消費者の生活は非常に貧しく不便なものになってしまうでしょう。
ただ、そのような進化が進んだ結果、以下のような問題が出てきていると思います。
1.知識やスキルのない消費者に対して、何を以て自らの商品・サービスの価値をアピールし、他社製品との差別化を行うのか。
2.消費者は知識やスキルがない存在として扱われるとプライドが損なわれたりすることがあり、また知識やスキルを(ほとんど必要としない)消費生活をなんだか空虚に感じたりするのをどうするか。
これらの問題を知識やスキルの教育抜きにクリアするために、火のないところに煙を立たせるたぐいの「こだわり要素」をでっちあげ、オカルトやら権威主義やらアディクション攻めなどの不健全かつ病的な手段で補強する、ということになってくるのだと思います。渋谷さんのおっしゃる三点セットは要するにこういうことなのではないかと。
さらに、製造者側の問題として、
3.製造に必要な知識・スキルを持っている(あるいは持とうという意欲のある)人材をどうやって確保するのか。
ということもあるかと思います。
そんなわけで、故桝谷氏が上記のような傾向を「マニア」と呼び、そこから脱却するには(地道な積み上げ型の)勉強しかないと述べていたのは、全く正しいとしか言いようがないと愚考する次第です。
こだわり、プライド、被害者意識の3点セットは人間の業みたいなもので、ユダヤ人迫害やNFB迫害やデジタル迫害の背後にたまたまわかりやすい形(痛い形)であらわれているだけのことなのでしょう。
市井の一人生経験家でしかない私としては、なるべくそういうものにまきこまれずに行きたいなとしかいいようがありません。
この手は、一度定型が出来上がるといつまでもしつこくほとんど不死身の生命力があるように思えるほどです。
>渋谷さん
まぁ、不死身の生命力が根付いてしまった人は仕方がないとして、そうでない道を歩みたいと思っている人の役に立てばよいかな、と>復刊
>そうでない道を歩みたいと思っている人の役に立てばよいかな、と
まったく、その通りです。道中良い道連れが得られればそれにこしたことはありません。
S氏ってたしかアキュの人でしたよねえ・・・。
私の中で何かが腑に落ちました。
heliさんの、2007/03/22 12:46 PMのコメントはまさに胴衣です。
まぁ、特定の会社の風土と、勤めている個々人のキャラの関係は色々あるんじゃないすかね。どっかで渋谷さんが書いていたように、「営業が決めた訴求点の枠内で現場がプロジェクトX」みたいな構図の場合、まともな技術者がいかさま製品を死にものぐるいで作る、なんてこともよくある話っぽいような気もしますし。とち狂った経営陣があらぬ方向に迷走し、社員がボーゼンとしているとかいうこともありそうですし。
・・・これは一般論であって、特定の企業や個人を弁護するものではありませんが(笑)。
あと、コメントついでに書いてしまいますが、初心者向けの本については、「内容の正しさ」と同じくらい「わかりやすさ」「とっつきやすさ」が大事だと思うんですよ。内容は正しいがとっつきにくい本(これは実に多い)よりも、内容はいささか問題はあるがとっつきやすい本の方が良いと思えることも少なくありません。前者だと挫折してそのジャンルと縁が切れておしまい、ということになりかねませんが、後者の場合そのジャンルに定着する確率が高いし、最初に読んだ本の誤りもさらなる学習を進めていくプロセスの中で訂正されれば良いとも言えるわけで(だから「誤り」の質も大事で、例えば骨の髄まで間違っているような本で学び始めてしまい、やばい世界にいざなわれてそのまま帰らぬ人となってしまった、なんてのはまずいですが)。
私、実はこの辺醒めた見方しています。
「世は科学技術につれ」なんですけど「科学技術も世につれ」だしなあ、という
単純にいうとそれだけのこと。たぶん純粋賃金生活者にして純粋消費者たるべく
子供のころから育てられれちゃった人にとって科学技術はもう魔法と区別つかないし
つけようともおもわないんですよ。
インターフェースのここをこうするとこうなりますという純粋約束事の収得に特化
したメンタリティですから、人間の約束事を越えたリアリティがあるはずだなんていう
科学のお約束は知ったこっちゃないでしょう。
理系の最高学府が定員割れっていうのもそういうことだとおもいます。
>渋谷さん
確かに今は科学で明るい未来な時代じゃないとは思いつつも、一方で、たとえば薄めて間引いただけの「ゆとり教育」に抗して検定外理科教科書を出している左巻健男氏他の取り組みなんかを見ると、もうちょっとはましにすることはできるんじゃないかという気もするのですよ。ちょっとかもしれんけど。
渋谷さんがおっしゃることはよくわかりますし、私もぎゃーぎゃー言いつつもそんな大戦果が上がるとは期待していなくって、たまに引っかかる人がいたらいいな、くらいなもんです。それでも何もせんよりはましかな、と。
わたしもわかります。原始仏教的無意識の上に原理主義的一神教を継木されたような
そだちかたかたしちまった人間にとって昨今の世相は恐るべきものがあると同時に
どうせ各世代地球全体で均してもクリティカルな思潮は30人ちょっとぐらいとか
結構際どいところでもってるんだろうなとか御気楽なところもあります。
科学技術→理数教育という図式も狭いんじゃないかと思うんですけどね。
建築の世界に一級建築士と大工との棲み分けがあるように、
あらゆる科学技術分野にはトップダウン型とボトムアップ型があります。
車のチューニングの世界にだって、高校もろくに出てないチューナーは大勢います。
微積分ができなければエンジニアにはなれん的な世人の思い込みが、
若者が参入する間口をえらく狭くしているような気もしないではありません。
ちなみに電気の世界は、「大工」型の職人が能力を発揮する余地が他より狭いかも?
そうです。そしてヲデオの世界にもチューニング・グッズとそれをめぐる
奇跡の秘術を高価にておすそ分けする一大産業があるわけです。
ソリは・・・建築士と大工の棲み分けとは違うでせう(笑)
医者と祈祷師みたいなものでは?
デュアルJFETは、まだヴィシェイ・シリコニクスとかInterFETとかSolitoronとか、出していますが、海外製品ばかりですね。
この本、秋葉原の書店では店頭にあるようです。
>nekonekoさん
いらっしゃいませ。
デュアルJFETの海外製品のことはよくしらないのですが、入手性とか価格とか性能はどうなんでしょうか・・・?
「基礎トランジスタ設計法」、復刊ドットコムでは品切れ状態ですが、本家のインプレスダイレクトでは手に入るようです。
http://direct.ips.co.jp/new_iHtml/ondemand/7025_3_1.cfm