「フライングガールズ 高梨沙羅と女子ジャンプの挑戦」「情熱大陸 #789 山田いずみ」

小学校3年生の時、札幌オリンピックが開催され、そこで初めてスキージャンプという競技を見ました。
70メートル級(当時は「ノーマルヒル」とか「ラージヒル」という言葉はなかった)で表彰台独占というのももちろんエキサイティングなことだったけど、何よりも生身の人間が体とスキーを地面とほぼ平行にして何十メートルも(時には百メートル以上も)空を飛んでいくという非現実的な姿にすっかり魅了されてしまいました。

そんなわけで小学校高学年の頃は、冬になると近くの公園や神社の石段でスキーやミニスキー(長さ30センチくらいのプラスチック製の板を長靴にベルトで縛り付けるようなやつ)でジャンプのまねごとに熱中したものでした。
飛距離は数メートルからせいぜい十メートルくらいにすぎなかったけど、それでもふわりと浮いている感覚のようなものが確かに感じられて、とても気持ちが良かったのを覚えています。
これが数十メートルとかだったら、ほんと一回やったらやめられないんじゃないかな。

「フライングガールズ 高梨沙羅と女子ジャンプの挑戦」というソチ五輪の前に刊行された(実はつい最近知った)本を読むと、女子ジャンプ創世記の苦難の道のりがこれでもかというくらい出てきます。
サーカスじゃないとか将来子供ができなくなるなどといった偏見とか、着替えの場所もないとか、出場できる試合がないとか。
特に、実業団チームを作ってくれた企業との契約が満了となったあとの受け皿探しの厳しさたるや(イカ釣り漁船に乗ることまで考えた渡瀬コーチの話は衝撃的でした)。

さらに、何と言ってもスキージャンプは危険なスポーツであり、多くの選手は大きな怪我(ほとんどは膝の靱帯をやられる)で長期の療養を余儀なくされた経験しているます。
日本で二人目の女子ジャンパーの葛西賀子に至っては、首の骨を折って選手生命はおろか生命そのものが危機に瀕したこともありました。

なのに、回復したらまたジャンプを再開するんですよね。

「母は・・・もうやめるんじゃないかと思っていたようです。でも、いくら言ってもだめなんだろう、という感じであきらめてもらいました。」
「ふふふ。頭がおかしい人なんだと思われるかもしれないですね。でもやっぱり、また飛びたかったんです」

最近YouTubeで見た「情熱大陸 #789 山田いずみ」(これはソチ五輪直後に放映されたもののようです)には、日本初の女子ジャンパー山田いずみのお母さんが出てくるのですが、娘がジャンプをやっていることについてどう思うか問われて、

「バカだなあという感じ(笑)。わが娘ながら。本当に根っから好きなんでしょうね」

と答えています。呆れかえりながらも、何言っても無駄なんだろうな、止めないんだろうな、というニュアンスが伝わってきます。

飛ぶことの魅力というか気持ちよさに取り憑かれる感じが、スキージャンプという競技を一種独特なものにしているように思います。
実生活でどれだけいろんな苦労があっても、最終的には飛ぶ魅力が残る、というか。

(敬称略)


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